信州生物多様性ネットきずなと長野県(自然保護課・環境保全研究所)の主催で令和6年2月3日(土)、塩尻総合文化センターにおいて第9回きずなフォーラム『里山の絶滅危惧種の保全について』が開催されました。今年度はコロナもやっと落ち着き対面のみでの開催でしたが、好天に恵まれ116名もの多くの方々が参加されました.
以下にその様子を紹介します.
予定よりはるかに多い116名もの参加者があり、 会場ではスタッフが急遽椅子を追加しました |
12:30 受付
13:00 開会 総合司会 福江佑子(あーすわーむ)
挨 拶 中村寛志(きずな会長)
池田 敦(長野県自然保護課長)
(フォーラムの趣旨)
「信州生物多様性ネット きずな」は、「生物多様性ながの県戦略」の地域連携・協働促進プロジェクトをもとに設立され、長野県とのパートナーシップ協定によりシンポジウム、セミナー、環境教育などを通して生物多様性の保全や普及活動を行っている団体の交流に取り組んでいます。
長野県版レッドデータブックは2001年度に維管束植物編、2003年度に動物編、2004年度に非維管束植物・植物群落編が発行されました。その後2014年に植物編,2015年に動物編が改訂されました。この間10年近くが経過し、長野県は2025年に2回目のレッドデータブック改訂版を発表する予定で今年度から作業に入りました。そこで本年度のきずなフォーラムは,絶滅危惧種の保全に対する国,県の現状と課題についての講演を聞き,後半は各保全団体による具体的な保全活動を報告してもらい絶滅危惧種に対する情報を共有しその課題解決を探る場とする目的で企画しました。
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池田敦長野県自然保護課長の挨拶 |
受付風景 |
13:10 講演
(1) 「国内希少野生動植物種保全の現状と課題」
百瀬 剛 氏(環境省信越自然環境事務所 野生生物企画官)
百瀬剛氏の講演 |
【講演要旨】国内外に生育・生息する絶滅のおそれのある野生動植物について、平成5年4月に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)が施行された。環境省では、本法令に基づき、国内希少野生動植物種(以下「国内希少種」という。)を指定するとともに、取引規制や生息地保護、保護増殖等の事業を行っている。国内希少種は、令和5年1月現在、442種が指定されている。そのうち長野県内では46種が記録されており、信越自然環境事務所では各種の生育生息状況について情報収集や現地調査を行い、保全の優先度を評価した上で事業を行っているところである。長野県は高山帯から人里まで標高差が大きく、生息生育環境は多種多様であり、それぞれの種ごとに置かれている条件は異なる。保全を進める上では、環境条件の改善はもとより、保護のための仕組みや体制づくり等課題は多い。
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百瀬氏の講演パワポから |
(2) 「長野県の絶滅危惧種の現状と保全の課題」
畑中健一郎 氏(長野県環境保全研究所 自然環境部主任研究員)
畑中健一郎氏の講演 |
【講演要旨】長野県には山岳から盆地までさまざまな環境があり、それぞれに豊かな生態系を形成しています。この豊かな生態系を育む自然は、私たち長野県民の生活基盤であるとともに、国内外の多くの人を魅了しています。しかし、その現状は大変危ういものです。2014年・2015年に改訂された長野県版レッドリストには、維管束植物の27%、チョウ類の26%などが絶滅危惧種として掲載されています。そして、これらの種を守るために多くの団体が県内各地で活動し成果をあげてこられました。しかし、必ずしも活動は順調ではなく、県が実施したアンケートでは74%の団体が会員の高齢化を課題として挙げるなど、さまざまな問題を抱えながら活動している現状があります。近年、ニホンジカの分布拡大や温暖化の進行など、生き物の置かれた状況は大きく変わりました。これを受け、長野県でもレッドリストの改訂作業に取り掛かっています。貴重な長野県の自然を守るには、行政や活動団体だけでなく、長野県に関わる多くの人が課題を共有し、連携して取り組むことが必要です。本講演では、県内の現状を踏まえた上で、今後の保全活動の可能性について考えたいと思います。
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畑中氏の講演パワポから |
中村会長と司会の福江氏の進行で各団体からの活動報告がなされた。 今年度は絶滅危惧種に焦点を当てたレポートです。 |
【報告内容】所在地 長野県諏訪郡富士見町発表者 五味直喜氏 (自生地保護部会責任者)タイトル 富士見町へ深山からの贈り物活動場所 富士見町釜無川源流域内容 絶滅危惧種のホテイアツモリソウの保護活動の紹介成果 長年に渡る自生地の保護活動と、(株)ニチレイとのパートナーシップにて培養技術の確立が進み、苗の販売まで至りました。また、各大学の協力により遺伝子解析等の基礎研究が向上し、今年度からはラン菌についての共同研究も始動します。課題 近年の異常気象による自生地の土砂崩落等による自生株の消失、温暖化による開花時期の早まりとポリネーターであるマルハナバチとの因果関係によるものと思われる結実数の減少等々、課題は多いと思います。
【報告内容】所在地 池田町発表者 加藤 俊(副代表)タイトル 高瀬川河原のカワイイ面々 ~ 高瀬川河原に見られる希少な植物と「高瀬川を愛する会」の活動の紹介 ~活動場所 高瀬川中下流域 ①大町市宮本橋付近(左岸)、②池田町二丁目地籍付近(左岸)、③松川村内眺望橋付近(右岸)、④池田町内鎌地籍付近(左岸)等内容 当会の活動場所に見られる絶滅危惧種の植物を中心に、活動エリア内の希少動植物の生態やその保全状況などを紹介成果 会発足から2年半の活動の中で,数十年間確認できていなかった希少種の再発見や,改めて存在が確認された希少種があった課題 活動エリアの広さや保全作業の逼迫性に対する作業人数の不足.また、このエリアの希少性に関する地域住民の認知不足
(3) ニゴと草カッパの会
代表の田澤佳子氏 |
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ニゴと草カッパの会の報告から |
【報告内容】所在地 木曽町開田高原発表者 田澤佳子(代表)タイトル 秋の七草咲く、木曽馬の草カッパ(草刈り場)活動場所 木曽町開田高原の採草地内容 野草利用の木曽馬文化によって維持されてきた半自然草地の保全・再生と木曽馬文化の継承成果 野草の採草の実践によって、伝統的採草地の維持と再生草地の生物多様性の回復を達成、草地と馬と人のつながりを再開出来た。課題 活動を広げ利活用するため、人や馬も含めた里山の自然と文化のつながりを共有する人の輪を広げる必要がある。
(4) ミヤマ株式会社
広報室室長の小林正征氏 |
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ミヤマ株式会社の報告から |
【報告内容】所在地 長野市発表者 小林正征(ミヤマ株式会社広報室 室長)タイトル 花伝舎での絶滅危惧種の保全について活動場所 Workcation Place 花伝舎(長野市戸隠)内容 花伝舎で保全している絶滅危惧種の植物や蝶の紹介成果 令和5年前期「自然共生サイト」の認定を取得課題 担当者等が変わっても同じレベルで保全活動が継続していくための仕組みづくり(業務への組み込み、人材育成、参加社員数の増加等)
(5) わかぜん(村上実氏、代表)
代表の村上実氏 |
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わかぜんの報告から |
【報告内容】所在地 北安曇郡池田町発表者 村上実(代表)タイトル ミヤマシジミ等のチョウ類保全活動の紹介活動場所 高瀬川河川敷、大峰高原等内容 若者を中心に様々な生き物の保全を行っています。その活動の一部と団体の紹介を行います。成果 若者の力で保全地の生物多様性の復元に貢献できた。課題 若者が気軽に参加し、主体的に取り組むことができる仕組み作りの構築
(6) 浅間山系ミヤマシロチョウの会
会長の花岡敏道氏 |
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浅間山系ミヤマシロチョウの会の報告から |
【報告内容】所在地 東御市発表者 花岡敏道(会長)タイトル 絶滅の危機迫る高山蝶ミヤマシロチョウ活動場所 浅間山系湯の丸高原内容 気候変動により高山蝶が危機が迫っている。特にミヤマシロチョウが衰亡している。成果 モニタリング調査や飼育調査で新たな知見を得ることができた。課題 生息環境の悪化に歯止めがかからないため、絶滅の危機が迫っている。
(7) 岩原の自然と文化を守り育てる会
代表の百瀬新治氏 |
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岩原の自然と文化を守り育てる会の報告から |
【報告内容】所在地 安曇野市発表者 百瀬新治(代表)タイトル 安曇野の青空にオオルリシジミが舞う日を目指して活動場所 安曇野市堀金国営アルプスあづみの公園内外内容 オオルリシジミの生息環境を整える目的で、市民に呼びかけ全域に食草クララの苗を植栽してもらう活動等を進めている成果 市内中心に千株以上のクララが植栽され、自然保護に対する関心が高まっている課題 オオルリシジミの自然発生数を増やし、保護区から分布範囲が広がるようにしていく
(8) 日本トンボ学会
日本トンボ学会の福本匡志氏 |
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福本氏の報告から |
【報告内容】所在地発表者 福本匡志(会員)
タイトル 絶滅危惧種のトンボ類の現状を紹介活動場所 長野県内各所内容 トンボが生息する水辺環境別に(河川、湿地、湖・池沼、水田など)絶滅危惧種の減少要因などを調査、その概要について成果 長野県版レッドリスト改定に向けての基礎資料として活用する課題 保全に向けての対策や取組をどのように行うか
(9) 関西学院大学教育学部
関西学院大学の江田慧子氏 |
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江田氏の報告から |
【報告内容】所在地 兵庫県西宮市発表者 江田慧子(教員)タイトル 絶滅危惧種のチョウを使った教材の開発活動場所 長野県安曇野市、広島県内容 絶滅危惧に瀕しているオオルリシジミやヒョウモンモドキを使った子ども向けの教材を作ったので紹介する成果 オオルリシジミやヒョウモンモドキの教材を作ることができ、またそれを学校現場で実践することができた課題 教材をもっと使ったり、学校の授業の中でも不変的に利用できるようにすることが必要である
16:00 ディスカッションと情報交換
コーディネーター:須賀 丈氏(長野県環境保全研究所 自然環境部長)
コメンテーター :百瀬,畑中,中村
活動報告に引き続き長野県環境保全研究所の須賀丈部長の進行で、ディスカッションと情報交換が行われました。コメンテーターからの感想の後、会場からは希少種の保全や活動の課題などについて様々な質問や意見で盛り上がり非常に有意義なディスカッションと情報交換の場となりました。
ディスカッションと情報交換のスナップ
16:40 閉会
最後に会長より、設立から10年目を迎えるきずなとしては、今後今まで以上に各団体の連携と協働をはかる様々な活動を進めていきたいので、参加者への協力のお願いがあり閉会となりました。
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